サンタフェ リー・ダークスコレクション
浮世絵最強列伝
~江戸の名品勢ぞろい~
Popular Impressions:
Japanese Prints from the Lee E. Dirks Collection
葛飾北斎の「風流なくてなゝくせ 遠眼鏡」 享和年間(1801~04) 大判錦絵
作品画像はすべてリー・ダークスコレクション ⓒ Lee E. Dirks Collection
浮世絵の祖・菱川師宣、美人画の喜多川歌麿、役者絵の東洲斎写楽、そして葛飾北斎や歌川広重など代表的な浮世絵師の優品のみを集めた展覧会が大阪髙島屋で好評開催中だ。
今回初公開されるのは、リー・ダークスコレクション。
初期浮世絵から明治・大正時代に至るまでの250年間に及ぶ素晴らしい浮世絵コレクションだ。
米国サンタフェ在住のリー・ダークスは、空軍士官として日本に駐留したのを契機に日本文化に関心を持ち、浮世絵版画の名品を収集して来た。
米空軍に服務後は、ダウ・ジョーンズやボストン・グローブ紙をはじめとする米国大手新聞社で記者・編集者、そして経営幹部として活躍。
現在は、風光明媚なことで知られるサンタフェ(ニューメキシコ州)やフロリダ州在住。
この展覧会の見どころは、葛飾北斎の「風流なくてなゝくせ 遠眼鏡」。
北斎が40代の頃に描いたもので、世界に3点しか存在が確認されていない非常に珍しい作品だ。
ぜひ、見逃していただきたくないのが、美術商、林忠正の判子が右端に押されていること。
林忠正が、「品質を保証する」という意味で押した印鑑だ。
林忠正は西洋で日本美術品を商った初めての日本人で、当時各地で開催された博覧会への参加や自身の美術商としての活動を通じて、日本の美術・工芸品の紹介に尽力した人物だ。
その活動は、画商の域を超えており、スウェーデンの国民的画家、カール・ラーション(Carl Larsson)に日本の文化を教えたのが、林忠正だ。
カール・ラーションは1895年刊行の『私の家族』において「日本は芸術家としての私の故郷である」と述べている。
スウェーデンのヨーテボリに筆者が行った時、その宿泊ホテル(グランド ホテル)が、かつてカール・ラーションのアトリエがあったところと観光局のかたに教えてもらった時、時空を超えて感慨深い思いであった。
そして、林忠正の活動が北欧にまで及んでいることに感銘を受けたものだ。
また、ジヴェルニーのクロード・モネ財団が運営する「モネの家」には、さまざまな浮世絵が飾られているが、それらの作品にも林忠正の印鑑が押されている。
筆者は、林忠正について「ボストン美術館 華麗なるジャポニスム展」の記事で以下のように述べている。
☆ボストン美術館 華麗なるジャポニスム展
https://artnews.blog.so-net.ne.jp/2015-04-22
奇しくも国立西洋美術館において「林忠正―ジャポニスムを支えたパリの美術商」の展覧会が、2019年2月19日~2019年5月19日開催されている。
https://www.nmwa.go.jp/jp/exhibitions/2019hayashi.html
「わか井をやぢ」というのは、当初、林が就職した起立工商会の上司で、のち86年からは共同経営者となる若井謙三郎のもの。この印鑑が押されていることにも注目されたし。
パリの美術界で日本美術の第一人者として頭角を著していた林のお墨付きは、パリのジャポニズム愛好者にとっては安心の証だったかもしれない。
作品に画商が印鑑を押すことは驚くことだが、今となっては、林忠正の押印によってさらに作品に価値を高めたことになったと思われる。
先日、2020年5月に十一代目 市川 海老蔵が十三代目 市川團十郎 白猿(はくえん)を襲名することが発表されたが、その俳名を名乗った人物の浮世絵が掲示されているのもタイムリー。
白猿とは五代目市川團十郎(1741-1806)が晩年に俳号として用いたもので、のちに芸名にも使用したもの。
十一代目 市川 海老蔵は、父や祖父への尊敬の念から團十郎白猿を襲名するという。
ちなみにこの展覧会では、勝川春章による「五代目市川團十郎の悪僧」が展示されている。
市川白猿という名は、歌舞伎役者の名跡及び俳名で、この名を名乗った人物は、2019年までに3名存在する。(注 十三代目 市川團十郎 白猿は、2019年時点で襲名していないので除く。)
歌川国貞と深い親交があったのは、五代目市川海老蔵で七代目市川團十郎(1791-1859)だ。
この人物も白猿を名乗っており、この展覧会において、歌川国貞の「武蔵坊弁慶 市川海老蔵 寿海老人白猿」が展示されている。
なお、「歌舞伎十八番」を制定したのは、この七代目市川團十郎だ。
さらに近寄って鑑賞されたし。
その頭襟(ときん)の正面摺(しょうめんずり)や紐の空摺にも注目。
エンボスのような立体的な浮き出しも鑑賞のポイントだ。
以下の画像はフォトギャラリーにて参照されたし。
歌川国貞の「武蔵坊弁慶 市川海老蔵 寿海老人白猿」
喜多川歌麿「歌撰恋之部 物思恋」寛政5~6年(1793-94)頃 大判錦絵
三代歌川豊国(歌川国貞) 小柳常吉、秀の山雷五郎、荒馬吉五郎 天保15年(1844)頃 横大判錦絵六枚続
魚屋北渓「長生殿」天保2年(1831) 大短冊判
とにかく、珍しい作品が展示されていることと、よくまとまった蒐集作品群だということ、さらに日本初公開のコレクションということがこの展覧会の特徴。
さらに、幕末の錦絵は出版量が増大したため、初摺と後摺で大きな違いが出たが、広重の摺の早い作品が多いのも、リー・ダークスコレクションの魅力の一つだ。
この大阪展が最後で、この後、米国に帰ってしまう。
お見逃しなく。
☆構成
江戸浮世絵の誕生−初期浮世絵版画
錦絵の創生と展開
黄金期の名品
精緻な摺物の流行とその他の諸相
北斎の錦絵世界
幕末歌川派の隆盛
無款(鳥居清倍カ) 「市川役者の鬼打豆」 宝永末~正徳期(1709-15)頃 大大判丹絵
菱川師宣 「衝立のかげ」 延宝後期~天和期(1679-84) 横大判墨摺筆彩
鈴木春信 「お百度参り」 明和2年(1765) 中判錦絵
勝川春章 「東扇 二代目山下金作」 安永5~6年(1776-77) 倍間判錦絵
歌川国政 「二代目中村仲蔵の松王丸」 寛政8年(1796) 大判錦絵
葛飾北斎 「四性ノ内 藤 干珠満珠 藤巻鎌 文政5年(1822)頃 色紙判摺物
岳亭 「傾城見立列仙伝 七番の内 琴高」 文政7年(1824)頃 色紙判摺物
春好斎北洲 「三代目中村歌右衛門の加藤正清」 文政3年(1820) 大判錦絵
葛飾北斎 「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」 天保2年(1831)頃 横大判錦絵
歌川国芳 「摂州大物浦平家怨霊顕るゝ図」 天保13年(1842) 大判錦絵三枚続
歌川国芳 「亀喜妙々」 嘉永元年(1848) 大判錦絵三枚続
歌川広重 「名所江戸百景 亀戸梅屋舗」安政4年(1857) 大判錦絵
会期
2019年2月23日(土)~ 3月11日(月)
休館日
なし
開館時間
10:00〜20:00、金・土は20:30まで
*最終日3月11日(月)は17:00閉場
*入場は閉場の30分前まで
会場
大阪髙島屋 7階グランドホール
(〒542-8510大阪市中央区難波5丁目1番5号)
https://www.takashimaya.co.jp/osaka/access/index.html
主催
日本経済新聞社
後援
米国大使館
協力
日本航空
チケット
一般
1,000円(800円)
大学・高校生
800円(600円)
中学生以下
無料
*価格は税込み
*()内は団体10名様以上の割引料金。
*「障がい者手帳」をご提示いただいたご本人様、ならびに、ご同伴者1名様は入場無料。
*安全のため、小学生以下のお子様は必ず保護者同伴でご入場のこと。
☆読者プレゼント
10組20名様にご招待券 プレゼント
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